前回のコラムで、宝徳寺さんの床もみじの話を
させていただきました。
他にも、桐生市内のお寺で昔からお付き合いのある
浄運寺(じょううんじ)さんの
施工をさせていただいたことがあります。
浄運寺さんは400年以上の歴史を持つ
浄土宗鎮西派の古いお寺ですが、
かれこれ20年近く前に親父と一緒に、
本堂のあく洗いと観音堂の須弥壇(しゅみだん)の塗装を
させていただきました。
今回は、その時のお話をさせていただきます。
浄運寺さん本堂前の「かんのん堂」の「釈迦堂」
浄運寺さん本堂の前に観音堂があり、
4階建てのビルの屋上に「かんのん堂」と
大きく書かれた看板が通りからもよく見えます。
この2階に「釈迦堂」があり、
巨大な涅槃像(ねはんぞう)が安置されています。
大きさは、約2間半(4.5m)あり、
スリランカ人の彫刻家が作成したものだそうです。
お迎えした涅槃像(ねはんぞう)をお祀(まつ)りする
須弥壇(しゅみだん:本尊を安置する場所)の
塗装をさせていただきました。
須弥壇(しゅみだん)は白木にニスが
塗られていましたが、木部の保護のためと
須弥壇(しゅみだん)に重厚感をもたせるため、
漆(うるし)調の漆黒のイメージで
仕上げてほしいとのことでした。
漆(うるし)に近い組成のカシュー塗料
漆(うるし)で塗装するのが理想ですが、
かなり高額になりますので、
カシューという漆(うるし)に近い組成の塗料を
使用しました。
カシューは透明の塗料のため、
黒や赤の顔料を入れて色を作ります。
今回は黒の顔料を使って、塗り重ねていきました。
実は、宝徳寺さんの床もみじも
最初はカシュー塗料で施工しようかと考えましたが、
冬場の施工で、温度管理が難しいため、
ウレタン塗料を選択しました。
カシューは、
暖かくて気温が安定している時期の施工が最適で、
寒い時期は塗装後の研磨が難しいためです。
浄運寺さんの須弥壇(しゅみだん)の塗装には
カシューを使い、2mmほどの厚さに仕上げていきました。
白木の状態から、地付け作業と呼ばれる、
表面に傷がある部分にパテをヘラにつけて
平らにする工程で、下地づくりを行います。
まず、下塗りがあり、中塗り、上塗りと
段階を踏んで仕上げていきます。
下塗り用のベースコートのカシューを塗り、
乾燥してから研磨作業、それを数回繰り返します。
下塗り用、中塗り用、上塗り用で
塗料の組成がそれぞれ違っていて、
例えば、下塗り用はキメを整えるための組成、
上塗り用は、研磨すると表面がつるつるに
なるような組成になっています。
それぞれの段階ごとに、塗料を
塗っては研磨、塗っては研磨を何十回も繰り返し、
漆黒の状態に仕上げていきます。
蓮の葉や花、蓮華(れんげ)などを模した
細かい彫り物もあったので、
先の尖ったスプーンのような金ベラを自作して、
磨きながら塗るのは、なかなか骨が折れる作業でした。
とは言え、目前の現状に合わせて、
どのように磨いて整えるのか、考えながらの作業は
やりがいがあり、楽しくもありました。
「釈迦堂」の須弥壇(しゅみだん)の塗装は、
1ヶ月ほどで完了しました。
浄運寺さん本堂のあく洗い~強アルカリ水溶液~
須弥壇(しゅみだん)の塗装後に、
浄運寺さん本堂のあく洗いをさせていただきました。
まずは、本堂に上がる
階段の段の木材が傷んでいたので、
ケヤキの一枚板に付け替えました。
本堂の奥には、ご本尊が鎮座しているので、
その周りの床の一部、柱、飾り棚などに
あく洗いを施しました。
本堂では、年中、線香や護摩を焚いているので
いぶされて柱などが黒くなっています。
あく洗いは「すす払い」を行うようなもので、
長年の汚れを薬品を使って洗浄し漂白する作業で、
酸とアルカリの反応を使って行います。
汚れの成分は酸性が多いので、
まずはアルカリ性を使って落とします。
汚れの成分は、空気中の埃と油分がくっついたもので、
線香や護摩を焚くところでは油煙が発生するため、
落とすにはかなり強いアルカリ性の溶液が必要です。
水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)の溶液を作りますが、
水分と反応すると発熱して高温になり、
湯気が発生し、極端な場合は水蒸気爆発を起こします。
苛性ソーダのフレークに少しずつ水を垂らして、
発熱反応させると、80~90℃くらいになりますので、
60℃くらいまで冷ましてから、木部に塗りつけます。
ちょうど50~60℃くらいで、油分が最も落ちやすい
適温になるので、そのタイミングを計るための
温度管理が重要になります。
木部に塗りつけるのと同時に、木部に染み込んだ油分が
誘い出されて表面に出てくるので、すかさず、
水を大量にかけ続け、表面に浮いたアクを取り除く
作業が必要です。
稭箒(みごぼうき)という、稲わらを束にしたほうきで、
木部の表面をなぞるようにして、
浮いた汚れを拭いながら、大量の水を含ませていきます。
強アルカリのため、水をかけ続けないと
木部の表面が焼けてしまう「アルカリ焼け」を起こし、
焦げたような茶色になってしまいます。
浄運寺さん本堂のあく洗い~酸性の薬品~
3~4人で1組になり、アルカリを薄める作業を行いますが、
そのままにしておくと「アルカリ焼け」が進みますので、
「アルカリ焼け」を戻す還元作用が必要になります。
こで、「酸性」を加えていきますが、
希硫酸、硝酸、薄い塩酸などを使います。
木部の材質により、ケヤキには塩酸、杉にはシュウ酸など、
還元する作業で、適した薬品を使い分けていきます。
水で「アルカリ性」を落とした後、まだ、濡れている状態で、
「酸性」を使って戻していきますが、
今度は、空気中の酸化作用が働き、黒ずんできます。
黒ずみを防ぐために、また、すかさず、
稭箒(みごぼうき)を使って、木部の表面を拭いながら、
酸の成分が完全になくなるまで、水で洗い落としていきます。
その後、木部を乾かすのに、
4~5日から、1週間くらいかかりますので、
自然乾燥でゆっくりと完全に乾かしてから、
サンドペーパーをかけて、
木部の表面を滑らかに仕上げていきます。
木の表面を洗うと繊維が毛羽立って、
ザラっとするので、キメを整えるために、
細かい目のペーパーで何回も磨きます。
特に、ケヤキはツヤっぽさを出すために、
ペーパーをかけた後、椿油をウエスで薄く塗っていくと
キメが整い、しっとりした仕上がりになります。
昔は椿の葉っぱを使って仕上げていたそうで、
葉っぱの葉脈から染み出る油を使っていたとのことです。
浄運寺さん本堂のあく洗いには、2ヶ月弱ほど
かかりました。
完全にまっさらの状態というわけではないですが、
かなり、もとの木部の状態まで再生することができました。
いうわけで、今回は20年ほど前の施工、
浄運寺さん本堂のあく洗いと観音堂の漆黒塗りについて
お話させていただきました。
前回と今回のコラムでは、2回にわたり、
寺院関連のお話をさせていただきました。
今後、ふくろうはうすのブログで、
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群馬県桐生市の工務店
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住まいの健康寿命診断士
ふくろうはうす(高橋建装)の高橋でした。
次回は「ご実家を兄妹で住み分ける完全分離型の二世帯住宅リノベーション」のテーマで準備しています。
楽しみにしてくださると嬉しいです。