前回のコラムで、宝徳寺さんの床もみじの話を
させていただきました。
他にも、桐生市内のお寺で昔からお付き合いのある
浄運寺(じょううんじ)さんの
施工をさせていただいたことがあります。
浄運寺さんは400年以上の歴史を持つ
浄土宗鎮西派の古いお寺ですが、
かれこれ20年近く前に親父と一緒に、
本堂のあく洗いと観音堂の須弥壇(しゅみだん)の塗装を
させていただきました。
![](https://fukurouhouse.jp/wp-content/uploads/2023/10/26215137_s.jpg)
今回は、その時のお話をさせていただきます。
浄運寺さん本堂前の「かんのん堂」の「釈迦堂」
浄運寺さん本堂の前に観音堂があり、
4階建てのビルの屋上に「かんのん堂」と
大きく書かれた看板が通りからもよく見えます。
この2階に「釈迦堂」があり、
巨大な涅槃像(ねはんぞう)が安置されています。
大きさは、約2間半(4.5m)あり、
スリランカ人の彫刻家が作成したものだそうです。
お迎えした涅槃像(ねはんぞう)をお祀(まつ)りする
須弥壇(しゅみだん:本尊を安置する場所)の
塗装をさせていただきました。
須弥壇(しゅみだん)は白木にニスが
塗られていましたが、木部の保護のためと
須弥壇(しゅみだん)に重厚感をもたせるため、
漆(うるし)調の漆黒のイメージで
仕上げてほしいとのことでした。
漆(うるし)に近い組成のカシュー塗料
漆(うるし)で塗装するのが理想ですが、
かなり高額になりますので、
カシューという漆(うるし)に近い組成の塗料を
使用しました。
![](https://fukurouhouse.jp/wp-content/uploads/2023/10/4698365_s.jpg)
カシューは透明の塗料のため、
黒や赤の顔料を入れて色を作ります。
今回は黒の顔料を使って、塗り重ねていきました。
実は、宝徳寺さんの床もみじも
最初はカシュー塗料で施工しようかと考えましたが、
冬場の施工で、温度管理が難しいため、
ウレタン塗料を選択しました。
カシューは、
暖かくて気温が安定している時期の施工が最適で、
寒い時期は塗装後の研磨が難しいためです。
浄運寺さんの須弥壇(しゅみだん)の塗装には
カシューを使い、2mmほどの厚さに仕上げていきました。
白木の状態から、地付け作業と呼ばれる、
表面に傷がある部分にパテをヘラにつけて
平らにする工程で、下地づくりを行います。
まず、下塗りがあり、中塗り、上塗りと
段階を踏んで仕上げていきます。
下塗り用のベースコートのカシューを塗り、
乾燥してから研磨作業、それを数回繰り返します。
下塗り用、中塗り用、上塗り用で
塗料の組成がそれぞれ違っていて、
例えば、下塗り用はキメを整えるための組成、
上塗り用は、研磨すると表面がつるつるに
なるような組成になっています。
それぞれの段階ごとに、塗料を
塗っては研磨、塗っては研磨を何十回も繰り返し、
漆黒の状態に仕上げていきます。
蓮の葉や花、蓮華(れんげ)などを模した
細かい彫り物もあったので、
先の尖ったスプーンのような金ベラを自作して、
磨きながら塗るのは、なかなか骨が折れる作業でした。
![](https://fukurouhouse.jp/wp-content/uploads/2023/10/935018_s.jpg)
とは言え、目前の現状に合わせて、
どのように磨いて整えるのか、考えながらの作業は
やりがいがあり、楽しくもありました。
「釈迦堂」の須弥壇(しゅみだん)の塗装は、
1ヶ月ほどで完了しました。
浄運寺さん本堂のあく洗い~強アルカリ水溶液~
須弥壇(しゅみだん)の塗装後に、
浄運寺さん本堂のあく洗いをさせていただきました。
まずは、本堂に上がる
階段の段の木材が傷んでいたので、
ケヤキの一枚板に付け替えました。
本堂の奥には、ご本尊が鎮座しているので、
その周りの床の一部、柱、飾り棚などに
あく洗いを施しました。
本堂では、年中、線香や護摩を焚いているので
いぶされて柱などが黒くなっています。
![](https://fukurouhouse.jp/wp-content/uploads/2023/10/2165586_s.jpg)
あく洗いは「すす払い」を行うようなもので、
長年の汚れを薬品を使って洗浄し漂白する作業で、
酸とアルカリの反応を使って行います。
汚れの成分は酸性が多いので、
まずはアルカリ性を使って落とします。
汚れの成分は、空気中の埃と油分がくっついたもので、
線香や護摩を焚くところでは油煙が発生するため、
落とすにはかなり強いアルカリ性の溶液が必要です。
水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)の溶液を作りますが、
水分と反応すると発熱して高温になり、
湯気が発生し、極端な場合は水蒸気爆発を起こします。
![](https://fukurouhouse.jp/wp-content/uploads/2023/10/22051183_s.jpg)
苛性ソーダのフレークに少しずつ水を垂らして、
発熱反応させると、80~90℃くらいになりますので、
60℃くらいまで冷ましてから、木部に塗りつけます。
ちょうど50~60℃くらいで、油分が最も落ちやすい
適温になるので、そのタイミングを計るための
温度管理が重要になります。
木部に塗りつけるのと同時に、木部に染み込んだ油分が
誘い出されて表面に出てくるので、すかさず、
水を大量にかけ続け、表面に浮いたアクを取り除く
作業が必要です。
稭箒(みごぼうき)という、稲わらを束にしたほうきで、
木部の表面をなぞるようにして、
浮いた汚れを拭いながら、大量の水を含ませていきます。
![](https://fukurouhouse.jp/wp-content/uploads/2023/10/4216753_s.jpg)
強アルカリのため、水をかけ続けないと
木部の表面が焼けてしまう「アルカリ焼け」を起こし、
焦げたような茶色になってしまいます。
浄運寺さん本堂のあく洗い~酸性の薬品~
3~4人で1組になり、アルカリを薄める作業を行いますが、
そのままにしておくと「アルカリ焼け」が進みますので、
「アルカリ焼け」を戻す還元作用が必要になります。
こで、「酸性」を加えていきますが、
希硫酸、硝酸、薄い塩酸などを使います。
木部の材質により、ケヤキには塩酸、杉にはシュウ酸など、
還元する作業で、適した薬品を使い分けていきます。
水で「アルカリ性」を落とした後、まだ、濡れている状態で、
「酸性」を使って戻していきますが、
今度は、空気中の酸化作用が働き、黒ずんできます。
黒ずみを防ぐために、また、すかさず、
稭箒(みごぼうき)を使って、木部の表面を拭いながら、
酸の成分が完全になくなるまで、水で洗い落としていきます。
その後、木部を乾かすのに、
4~5日から、1週間くらいかかりますので、
自然乾燥でゆっくりと完全に乾かしてから、
サンドペーパーをかけて、
木部の表面を滑らかに仕上げていきます。
![](https://fukurouhouse.jp/wp-content/uploads/2023/10/23254341_s.jpg)
木の表面を洗うと繊維が毛羽立って、
ザラっとするので、キメを整えるために、
細かい目のペーパーで何回も磨きます。
特に、ケヤキはツヤっぽさを出すために、
ペーパーをかけた後、椿油をウエスで薄く塗っていくと
キメが整い、しっとりした仕上がりになります。
![](https://fukurouhouse.jp/wp-content/uploads/2023/10/1210410_s.jpg)
昔は椿の葉っぱを使って仕上げていたそうで、
葉っぱの葉脈から染み出る油を使っていたとのことです。
浄運寺さん本堂のあく洗いには、2ヶ月弱ほど
かかりました。
完全にまっさらの状態というわけではないですが、
かなり、もとの木部の状態まで再生することができました。
いうわけで、今回は20年ほど前の施工、
浄運寺さん本堂のあく洗いと観音堂の漆黒塗りについて
お話させていただきました。
前回と今回のコラムでは、2回にわたり、
寺院関連のお話をさせていただきました。
今後、ふくろうはうすのブログで、
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群馬県桐生市の工務店
リフォーム・リノベーション専門店
住まいの健康寿命診断士
ふくろうはうす(高橋建装)の高橋でした。
次回は「ご実家を兄妹で住み分ける完全分離型の二世帯住宅リノベーション」のテーマで準備しています。
楽しみにしてくださると嬉しいです。